幸福の木364予感2

その愛してるでしょ?

何だよ、お前。

ちゃんと答えてっ大事な事なんだ。

大事って?

変だぞ、何かあったのか?

何かって?

電話でこんなこと聞いてくるなんて変だ。

機会があったら聞いておきたいって前から思っていただけだよ。

それは俺と翔くんの話だ。

和也?

恨んでる?許せない?

なっ、何言ってんだ、そんなわけないだろ?

恨んでるのは俺じゃない。

むしろ

本当はそこまで好きじゃないんだ?

だから言えないんでしょ?

いくら電話でも嘘はつけないもんね

分かったよ、残念だけど気持ちを無理強いなんて出来ないから。

はっ、あのなぁ。

いつもの揶揄った調子もない。

言いにくい事をさらっと言ってのけるところがあるけど、考えもなく発言するような奴じゃない。

俺の想像以上に弟に心配をさせて負担をかけているのかもしれない。

深く息を吐きだす。

とにかく今は、電話の相手を納得させたかった。

好きです、愛してます

これでいいかっ。

一気に言い終えた。

和也のヤツ、帰ったら覚えてろ。

だが、それでも和也は納得しなかった。

記憶が戻ったら、翔兄の気持ちが変わるって今も思ってる?

そっ。

図星を指されて言葉を失う。

それはそうだ。

思い出したら、今までみたいには行かないだろう。

熱い視線は失われて

和也は一体どうしてこんなにしつこいんだ?

なんだってそんな事言い出すんだ?

どうなるかなんて誰にも分らないだろ。

でも、さと兄はそう思ってるんでしょ?

記憶が戻ったら終わりだって?

たしかにそうだった。

でも

記憶が戻る戻らないは関係ない。

え?

人の気持ちは変わっていくものだよ。

まさかっ、翔兄の事、はなから信じてないの?

信じてるよ。

俺が言ってるのは一般的な話だ。

さと兄俺が聞いてるのは兄貴自身の気持ちだ。

他人の話じゃない。

記憶が戻ったら終わりだって、まだ思てるの?

そうじゃないっ。

俺が言いたいのは、今の気持ちも、変わるかもしれない未来の気持ちも

どっちも本当だよ。

え?

変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。

どうなるかなんて結局誰にもわからない。

だからこそ、今のこの感情を愛おしく感じる。

逃げないって決めたんだ。

さと兄?

どんな結末を迎えるとしても、俺は今度こそ逃げないで受け入れられると思ってる。

昔みたいな子供じゃないし、もう、オジサンだからな。

オジサンってなんだよ。

仕方ないだろ、年は取るんだから。

和也がようやくクスクスと笑っていた。

やけに思いつめたような事ばかり聞いてくるから、そんな反応にホッとした。

大人には大人の事情があった。

それは俺の知らない事だったけれど

俺は翔くんに責められながら、いつも心の底では自分は悪くないと思っていた。

はたして本当に心から悪いと思ったことがあったんだろうか?

親が勝手にした事で俺は関係ないって叫びそうで叫べなかった。

でも、それは間違いだった。

翔くんを傷つけた俺たちは、やっぱり悪かったんだ。

再び同じ事が起きたら俺は今度こそ素直に謝れる気がする。

悪かったって

俺たちの都合で翔くん達から、おとうさんを取っていたんだ。

そんなこと相手からしたら耐え難い事だろう。

いずれ記憶が戻ったら

翔くんが泣いていた後ろ姿がぼんやりと甦った。

こんなに時間が経ったっていうのにその時を鮮明に思い出す。

本当に愛してたけど、彼の愛情に甘えてさんざん苦しめていた。

和也、翔くんもしかして思い出したの?

一瞬の間。

相手が息を詰めたのが分かった。

そうなんだな?

だから電話をくれなかったのか

違う、兄貴は何も思い出してない。

本当に?

本当だよ。

返ってきたのははっきりとした否定だった。

じゃあ、なんでこんな

でも、いずれ話さないといけないでしょ?

そうだけど。

約束して勝手に消えたりしないって。

はいはい。

もっとちゃんと約束してっ。

どうしたんだ?

分かったよ、勝手に消えたりしない。

和を泣かすような事はしないから安心しなさい。

そう言うと、受話器の向こうで嗚咽が聞こえだした。

忙し過ぎて、疲れているのかも知れない。

急いで帰って、がんばってくれた和也を一番に労おうと決めた。

日本

うっはっ。

和也は後から後から涙をあふれさせていた。

止まらなくなった様だ。

聞いた?

さと兄の気持ち

翔兄が社長の方がいいって。

何も応えられない。

智くんは、はっきりとした決意をもっていたんだ。

一体どうしたらいいんだ?

どうしたら

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