16冊目、最強の地域医療

最強の地域医療

2017年4月発行

著者は、村上智彦先生。情熱大陸でミスター医師法第一条という二つ名で紹介された医師である。

1961年生まれ。北海道生まれ。

薬剤師免許を取得後、金沢医科大に入学し、医師免許も取得。

38歳より、地元への貢献を決意し、北海道の瀬棚町にて在宅医療に取り組む。

治療に努める中で、予防医療の重要性に気付く。

2006年より、財政破綻した夕張市の医療再生に取り組む。1億2000万の借金をし、医療財団法人夕張希望の社を設立。

2007年、夕張市財政破綻

2013年、夕張より撤退。現在は、医療法人ささえる医療研究所ささえるクリニックの理事長を務める。

2015年、白血病を発症。

幼少の頃より、注意欠陥多動性障害も発症しており、支援の重要性も訴えている。

前回の奇跡が起きる仁の医療は、長らく高齢化率ナンバー1だった山口県大島郡周防大島町での取り組みを紹介した本でした。

今回の本は、夕張市が舞台になっていますから、財政破綻という視点から地域医療の問題点が書かれています。実際に、少子高齢化に伴う社会保障費の負担が問題になっているわけで、あってしかるべき観点かと思います。

さらに、この先生は、自身が白血病を発症しており、医師と患者の両方の立場で問題点が書かれてあるのが貴重です。

というわけで、内容のほうを書いていきたいと思います。

まず、日本人の国民性から、医療費の問題点を語っています。

在宅医療で安らかな死を目指す。が、高齢者医療における昨今のテーマとなっています。終末ケアとかホスピスケアとか呼ばれているヤツです。これは、社会保障費と人間の尊厳の二つの問題の対策として進められている施策です。

しかしながら、信仰心の希薄な日本人は、海外と比較すると死生観に乏しく、医療においても介護においても、死の受容いかに幸せに死ぬかではなく、いかに長く生かすかというところから脱却できていません。

ただ、これは文化的に仕方がないことで、白血病を発症した先生自身も死の受容はできていないそうです。

そして、これが医療費増大の遠因になっていると説きます。

安らかな生活よりも治療が主となる発想では、各地方に専門的な治療ができる病院が配置されるので、その分だけ医療費が上がるのです。そして、医師、看護師不足も問題となる。

著者は、本当に在宅医療と終末ケアを目指すのであれば、専門的な病院は都市部にのみ配置、地方では予防医療と生活習慣病のケア、高齢者介護との連携に留めることが、医療費削減にも安らかな死にも繋がると言います。

しかしながら、これが行われないのは、文化的な思想だけが原因ではありません。

最もその足枷となっているのは、地方の既得権益で、夕張市の破綻はその仕組みこそが原因だったと言います。

そして、夕張市財政破綻は日本の未来の姿だと言います。

夕張市は、明治初期より炭鉱の町として栄えました。

時代とともに、1980年頃より産業が衰退していきます。元、社会党が力を持つ土地柄で、官や組合も強く、公共事業や交付金が多く支給されていた背景がありました。

そのため、その水準を下げることができず、2007年に632億円の負債を抱えて破綻をします。

破綻直前にも、公務員の給与を上げようとしたり、シルバー民主主義を掲げて市長が当選したりと、浪費を歯止め出来ない状況がありました。

破綻後も、少子化のために6校の小学校の1つに合併させる話があったのですが、それもうやむやになってしまった実態があります。メディアでは、そのための人件費すら捻出できなかったなどと報道されているようですが、著者は北海道教職員組合が既得権を守った結果と言います。

同調圧力が強く、改革の声が上がっても潰される状況があり、著者の先生も地域医療を確立していこうという中で行政や医師会と対立をしたそうです。

著者が瀬棚市で作りあげた官民一体の地域包括ケアのシステムは、官が既得権を確保することから脱却できない夕張市では実現できなかったと振り返ります。

結果、著者は夕張に愛着があるという理由で訪問サービスのみを残して、夕張市から撤退することになります。

では、地域包括ケアを作り上げるには。

まず、医師会は医療報酬の期待できる大病院主義から、自治体の財政を圧迫しない地域包括ケアに移行する。自分の儲けを考えるのではなく、それが自治体の財政を圧迫していると気付くべき。自治体が破綻して困るのは医師会である。

市は住民を増やす努力をする。税収の無駄使いは住民が自治体を離れる原因となる。減収で困るのは自治体である。

そして、地域住民はお互いを支え合う社会を作る覚悟が要る。それは自分が暮らす地域を豊かにするため。

地方には都市部と異なる点として、地元愛を育みやすいという利点がある。つまり、地域包括ケアを作り上げる土台はある。

厚労省の勧める地域包括ケアの仕組みを先に作り上げるのは地方であり、地方の再生がいずれは日本の再生に繋がる。

地域包括ケアを作り上げる方法というか、地域包括ケアを構築するために障害となっている既得権について言及してある本。

やはり、色な視点からの意見を認識できるのが、この読書企画の醍醐味。

次回は、お泊りデイサービスの本でも紹介します。

この無認可の老人ホーム関連が面白くて、特養入所待ちの家族にとっては救世主となるわけで、それが美談として書かれている本もあれば、宿泊施設でもない共同生活という体を成しているので、法律上の規制がなく、故に劣悪な環境になっているということを言及した本もあるんですよ。

それを続けていきます。